インドネシア語でSilakanとTolongとMohonはどう違うのか?

SilakanもTolongもMohonも、英語のPleaseに該当して、命令文で丁寧なトーンになります。えーー、そんなの知ってるよと思うかもしれませんが、実はこの3つの使い分けが超・超・超・細かかった! インドネシア語のネイティブたちにHiNative.comで質問した結果を踏まえて、シチュエーション別の「お願いします」フレーズを徹底解説。たぶん、どこのウェブサイトよりも詳しいと思う。

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2021年1月にHiNativeで質問

よく見かける定義文

最初に、日本語でインドネシア語のオンライン学習サービスを提供している Japanesia(ジャパネシア)さんの解説をお読み下さい(解説ブログのタイトル「インドネシア語の命令文|お願いしますって何て言う?」)。

ジャパネシアでは、インドネシア語を学ぶ日本人の素朴な疑問に、インドネシア語ネイティブの方々が解説を加える形式でブログ公開しています。一般的なお堅い座学の文法書よりも格段にとっつきやすく、説明も分かりやすいです。

でもね。私には全く足りないのだよ、この解説だけでは。

  1. Silakan = どうぞ~してください。(相手に許可する時に使う)
  2. Tolong = ~してください。
  3. Mohon = ~してください、お願いします。(主に書き言葉)

ジャパネシアではこのように解説されていますが、これをたとえ英語に置き換えたとしても、やはり微妙な使い分けのニュアンスが分からず。

さらにTolongは、「~してください」(Please)以外に、一般的な動詞として「助ける」(Help)の意味もあります。なので、Tolongを他の動詞の前にくっつければ、その命令文は命令者を助けるためのものなのだ、とかこじつけて理解している人もいました。というか、Duolingo(語学アプリ)を使っているインドネシア語学習者のフォーラム上では、このような受益のニュアンスで誤解している人が続出。。。

あのですね。その解釈、間違ってますから。

ってことで具体的な事例を提示して、HiNativeで私が質問してみたわけなのです。

  • Minum air (Drink water) = 水を飲む
  • Masuk (Enter / Come in) = 入る

この2つのフレーズを使って、Silakan/Tolong/Mohonをくっつけたら、「水を飲んで下さい」と「お入り下さい」にどのようなニュアンスの違いが生じるのか、以下シチュエーション別に解説していきます。

事例1 — 来客者にお水を勧める

あなたの家に友達が遊びに来た時。あなたのオフィスに取引先の方が訪問して会議室に案内した時などなど。どうぞ、どうぞ。喉が渇いているでしょうから、お水をお飲み下さい。こんなシチュエーションでは

  1. Silakan minum air!
  2. Tolong minum air!
  3. Mohon minum air!

どれを使うでしょうか? 最初の事例なので、簡単なものからスタートしてみました。正解はまとめて後述しますので、皆さん回答メモを取りながら読み進めていって下さい。次から難しくなっていきます。

事例2 — 砂漠で倒れている人を発見して水を飲むよう促す

あなたが砂漠を旅していると、脱水症状で倒れている人を発見しました。見たことがない赤の他人です。あなたは自分が持っているペットボトルの水を差し出して、「水を飲んで下さい」と言います。

自分の水を他者に「どうぞ」と勧めているという観点では、事例1と同じです。ですが、切羽詰まった感が違います。水を飲まないとこの旅人は死んでしまいそうです。こんな時

  1. Silakan minum air!
  2. Tolong minum air!
  3. Mohon minum air!

どれを使って水の摂取を推奨しますか?

事例3 — 薬剤師が患者に薬と一緒に水を飲むよう指導する

薬によっては、十分な量の水と一緒に摂取しないと危険な場合がありますよね。近頃の日本の薬剤師さんは解説が丁寧なので、医療機関で処方された薬を薬剤師さんから貰う時、こうした注意事項を口頭で説明してくれる機会が増えました。

薬剤師さんと患者の関係ですから、ぶっきらぼうに「水飲めよ」とは言えないので、「水を飲んで下さい」と丁寧な口調になります。こんな時

  1. Silakan minum air.
  2. Tolong minum air.
  3. Mohon minum air.

どれを使って水の摂取を推奨するでしょうか?

正解と解説は後述しますが、この事例3はトリッキーです。先に予告しておきます。

事例4 — 来客をお出迎えする

ここからは Minum air (水を飲む) ではなく、Masuk (中に入る) を使った事例です。

あなたは自宅でパーティを主催することになりました。玄関口で「どうぞお入りください」と来場客をお出迎えする際、どう言いますか?

  1. Silakan masuk.
  2. Tolong masuk.
  3. Mohon masuk.

この問題は簡単ですね。でも次から難しくなります。覚悟して下さい。

事例5 — 医師が次の患者を診察室に呼び入れる

あなたは医師です。患者さんAは今日の午後3時で診察予約を入れています。前の患者さんの診察が終わったので、待合室にいるAさんに「どうぞお入りください」と声を掛けます。

  1. Silakan masuk.
  2. Tolong masuk.
  3. Mohon masuk.

事例4はゲストとホスト、今回の事例5は医師と患者です。「ご足労頂き恐縮です。さあどうぞ、中に入ってご自由にお過ごし下さい」というニュアンスは事例5にはありません。もっとドライな関係です。

事例6 — 町医者の診療所のドアに掲示する

同じお医者さんの設定ですが、事例5が声掛け(口頭)であったのに対し、事例6は書き言葉です。当院では事前の電話予約なしでも診察しますよ。患者さんはどうぞ待合室にお入りになってお待ちください。そんな意味を込めて、診療所のドアにどのような文章を掲示をしますか?

  1. Silakan masuk.
  2. Tolong masuk.
  3. Mohon masuk.

事例5は誰に対して医師が声を掛けているのか明確ですが、今回の事例6では不特定多数に対する通知だという点でも、両者に違いがありますが、「どうぞ」の使い分けをすべきでしょうか?

事例7 — ベルが鳴ったので外で遊ぶ生徒に教室に戻るよう促す

続いては学校の先生と生徒の関係です。昼休みの終わりを告げるベルが鳴りました。外で遊ぶ生徒たちに対して「皆さん、さぁ教室にお入り(お戻り)なさい」と先生が柔らかい口調で促します。

  1. Silakan masuk.
  2. Tolong masuk.
  3. Mohon masuk.

いつまでも駄々をこねて外で遊んでいる生徒を叱っているわけではないので、「コラぁ、教室戻れや!」と命令口調は使えません。

でも事例5 & 6 の医師=患者よりも、今回の事例7の先生=生徒の関係性の方が上下関係が明確ですし、大人と子供という年齢差も歴然としています。インドネシア語では「どうぞお入りなさい」の表現を使い分けるのでしょうか?

事例8 — 掃除のために家政婦に入室してもらう

さらに難易度が上がります。あなたは駐在員特権を使って、インドネシアの自宅で家政婦さんを雇っています。あなたが自宅の書斎でデスクワークをしていると、家政婦さんがドアをノックして「今、掃除のために入室したらお邪魔でしょうか?」と尋ねてきました。あなたは「いや、今なら大丈夫ですよ。どうぞお入りなさい」と返事します。

  1. Silakan masuk.
  2. Tolong masuk.
  3. Mohon masuk.

さぁ、インドネシア語でなんと言いますか? この問題も、非常にトリッキーです。

事例9 — (番外編) 恋人に行かないでと懇願する

これが最後の問題です。これまでは水を飲む、または入室するケースを扱いましたが、番外編では「行かないで (私の元を去らないで)」と否定形の命令文を使って懇願するパターンを検討します。

  1. Silakan jangan pergi dariku!
  2. Tolong jangan pergi dariku!
  3. Mohon jangan pergi dariku!

Janganは英語の “Don’t…”の意味と全く同じです。Pergiは英語の”Go”、Dariは英語の”From”。フォーマルな言い方ならば “dari saya” で “from me” となるのですが、恋人同士の場合は一人称は “saya” ではなく “aku” とくだけた言い方になります。そして “from me” は “dari aku” となり、さらに短縮して “dariku” に変化します。

ということで、これまで紹介した事例9個の中で、最も親密な関係性を示しています。ですが「行くんじゃねぇ (あたしの元を去るんじゃないよ!)」とぶっきらぼうに命令するわけにはいきません。そんな口調ではさらにあなたの愛する恋人はあなたの元を去ってしまうでしょう。こういう懇願するケースでは、Silakan, Tolong, Mohonのどれを使いますか?

正解まとめ

事例9パターンの正解を示す前に、ジャパネシアさんのブログ記事(インドネシア語ネイティブ解説)をおさらいしましょう。

  1. Silakan = どうぞ~してください。(相手に許可する時に使う)
  2. Tolong = ~してください。
  3. Mohon = ~してください、お願いします。(主に書き言葉)

残念ながらこの使い分け定義が全く使えないことに気づかされます(すみません、ジャパネシアさんをディスってるわけじゃないので気分を害されませんように)。

  • 事例1 — 来客者にお水を勧める ⇒ Silakan minum air!
  • 事例2 — 砂漠で倒れている人を発見して水を飲むよう促す ⇒ Tolong minum air!
  • 事例3 — 薬剤師が患者に薬と一緒に水を飲むよう指導する ⇒ Tolong diminum obatnya! または Tolong diminum dengan segelas air!
  • 事例4 — 来客をお出迎えする ⇒ Silakan masuk!
  • 事例5 — 医師が次の患者を診察室に呼び入れる ⇒ Silakan masuk!
  • 事例6 — 町医者の診療所のドアに掲示する ⇒ Silakan masuk!
  • 事例7 — ベルが鳴ったので外で遊ぶ生徒に教室に戻るよう促す ⇒ Tolong masuk!
  • 事例8 — 掃除のために家政婦に入室してもらう ⇒ Masuk! または Tolong masuk!
  • 事例9 — (番外編) 恋人に行かないでと懇願する ⇒ Mohon jangan pergi dariku!

まず、Silakanは「許可」ではありません。許可とは話し手側に決定権があり、聞き手に対して与えるものですが、Silakanにはこのようなパワーバランスはありません。

入室のパターンでも、SilakanとTolongの両方が使われています。Tolongのニュアンスがジャパネシアさんのブログ記事に書かれていないので、Tolongの用法が分かりません。

Mohonは確かに書き言葉に多く見受けられますが、修羅場を迎えた恋人同士の会話でも使われています。

徹底解説

Silakan / Tolong / Mohon の違いは押しの強さ

これが正解です。英語で表現すると、

  • Silakan = Offering(オファーを受け取るかは聞き手側の自由)
  • Tolong = Asking(聞き手は受け入れる必要がある)
  • Mohon = Begging(話し手が必死に懇願している)

聞き手側に実行の必要性が発生する、という意味ではTolongとMohonは同じです。ですが話し言葉の場合、Mohonの方が必死さが強まります(捨てられないように懇願する恋人のように)。また書き言葉やフォーマルなシーンでMohonが使われた場合は、必死さというよりは「慇懃さ」が増してより丁重なニュアンスになります。

事例2(砂漠)の場合、話し手(水を持っている救助隊)は聞き手(脱水症状で倒れて死にそうな旅人)に水を差し出しています。という意味ではOfferingのような気もするのですが、飲まなければ死ぬので、押しが強くなります。ですからSilakanではなくTolongが正解です。

事例5(診察室)の場合、聞き手(患者)が診察してもらいたい側です。話し手(医師)には入れや、コラァという押しの強さはありません。ですからTolongを使うのはヘンなのでSilakanになります。

事例7(昼休み明けの学校)の場合、聞き手(生徒)は教室に入る(戻る)必要性があります。このようなケースで先生がSilakan masukと言ってしまうと、生徒は指示を聞き入れなくても問題ないというニュアンスになってしまうので、Tolongが正解です。

トリッキーなのが事例8(家政婦)です。Masuk または Tolong masuk ですが、用途が違います。家政婦がドアをノックして「入ってよいですか?」と尋ねたのに返答する際、Tolong masuk とは言いません。Silakan も Mohon も付けません。これは家政婦を使用人として見下しているからではありません。最初にお伺いを立てた、つまり言い出しっぺが家政婦側なので、これに返答する際に Tolong を使うのはヘンなのです。先述の通り、Tolongを使うと話し手(この場合だと家政婦の雇い主)側の押しの強さが出てきてしまいます。

ところが同じ家政婦とその雇い主の関係性でも、Tolong masuk を使う場合があります。雇い主が家政婦に対して、「あの部屋に入って掃除お願いね」と指示を出す際には Tolong masuk ke ruangan itu. (= Please enter into that room.) のように Tolong を付けます。言い出しっぺが雇い主だからです。

さぁ、ここまで来たら、事例9(恋人の修羅場)で Silakan でもなく Tolong でもなく Mohon を使う理由が分かりますよね? 「お願いだから、私を見捨てないで」と最大級の必死さなので、押しが強くなるから Mohon なのです。

最後に順番が前後しましたが、事例3(薬剤師の助言)について。水と一緒に薬を飲まないと健康上のリスクが生じるので、聞き手(患者)側は助言を受け入れて実行する必要があります。ですからこのようなケースでは、事例5(診察室)における医者と患者とは異なり、事例3では実行要求度が高まるので、Silakan は使えず、Tolong を選択することになります。

ところがTolong に続く動詞がちょっと違うのです。事例2(砂漠)では Tolong minum air だったのに、事例3(薬剤師の助言)では Tolong diminum dengan segelas air となり、minum の受動態である diminum になります。能動態のままだと不自然だ、と複数のネイティブが主張しています。動詞を受動態に変化させる接頭辞 “Di-” については、別の機会に解説しようかと思います。


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参考: ヘッダーに使用しているフリー画像のリンク。作者はTumisuさん。

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